【丹下坂心理カウンセラーのつぶやき】

かけがえのない時間

丹下坂心理カウンセラー

2017/09/27


私には3歳年上の兄がいる。
正確には「いた」というのが適切な表現だろう。

8年前、白血病でこの世を去った。
40歳目前の時だった。


当時の私は仕事に、家庭にと、とにかく忙しい時間を過ごしていた。
兄の元へ行くにも、その忙しい時間の最中、「わざわざ」時間を作って通っていた。


車で15分の場所。
それでも往復に30分はかかる。
雪の季節だと、当然それ以上の時間を必要とする。

運転も夏のようにはいかず、路面状況、周囲の様子に夏場以上に神経を使う。
現に一度、下り坂で止まれない車に追突されたことがある。
車の一部が破損しただけで、体への影響はなかったのは幸いだった。


そうして季節が変わっても、ほぼ毎日、多い時には1日に二度三度と病院へ通った。
もちろん、毎日洗濯などの用事があるわけではない。
頼まれたものを持っていくわけでもない。

無菌室の一等親以外の立ち入りを禁止されている、兄だけしかいない病室。
特別な会話があるわけでもない。
ただただ、時間が過ぎていくだけ。


「どう? 今日の調子は」
「まぁ、たいして変わらないよ」

「じゃ、また明日来るね」
「おー。気をつけて帰れよ」


毎日、この繰り返しである。
この会話をするためだけに、毎日30分という時間を遣っていたことになる。



余命半年と言われた兄も、抗がん剤の治療が功を奏し、幸運にも骨髄の型が合うドナーが見つかった。
しかし、残念なことに、検査段階でドナーの体に異常が見つかり、移植手術の話は白紙状態に。

治療は振り出しに戻った。
抗がん剤治療である。


それでも希望を失うことなく兄は治療に専念、私は毎日病院へと向かう。
そう、30分という時間を使って。


それから数週間、またドナーが見つかったという連絡が病院から入った。
念には念を、ということで、予定にはなかった移植手術前の最後の抗がん剤治療。

ここに医療ミスがあり、結局は、そのミスで兄は還らぬ人となってしまった。
ICUに移動してわずか4日。
あっという間だった。


「兄のために」と足げく毎日病院へ通った9か月間。
あれ以上の時間を割くことは無理だった。
自分の出来得る全ての時間を「兄のために」使った。


「どう? 今日の調子は」
「まぁ、たいして変わらないよ」

「じゃ、また明日来るね」
「おー。気をつけて帰れよ」


「兄のために」と使ったその時間は、実は、「私のための時間」だった。

もういない兄との時間を楽しむことはできない。
しかし、兄と過ごしたあの時間は「かけがえのない時間」として、今も私の中で生き続けている。


執筆者:カウンセリングMaNa 丹下坂 愛実

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